2020 NIKON JOICO AWARD の優秀賞を受賞した京都大学 医学研究科 創薬医学講座 のタムケオ ディーン
特定准教授。『セルトリ細胞皮質下アクチン繊維ナノアーキテクチャーの超解像イメージング』について、研究内容から応募した画像を撮影するまでの苦労や秘話をオンライン授賞式の中で熱く語っていただきました。
研究内容
優秀賞受賞、おめでとうございます。
とても綺麗な 3D-STORM 画像で、貴重な顕微鏡画像だと社内でも大変喜んでいました。
― ありがとうございます。
あの画像はほとんど加工をしていない元の画像なんですよ。
今回応募していただいた画像はマウス精巣由来のセルトリ細胞の初代培養ですが、 mDia のダブルノックアウトマウス作成がスタートで、その後精子の研究の方移られたという理解で良いでしょうか?
― そうですね。
まず、mDia1/3
ダブルノックアウトマウスが子供を作らないことが分かったので、なぜ子供を作らないのかということを調べてみました。すると、精子を形成する過程で重要な細胞、セルトリ細胞がおかしいということに気がついたのです。
通常の共焦点顕微鏡ではアクチンやファロイジンで染めても全然見えなくて、今回の超解像度画像でみられるようなアクチンは、モヤッとしか写らなかったです。ただ、そのモヤモヤの具合が wild type
とノックアウトマウスで少し違っていたので、超解像度顕微鏡を使っていたシンガポールにいる友人の研究室へ行ってイメージングしました。
では、今回ご応募頂いた作品はシンガポールで撮影をされたのでしょうか?
― はい、そうですね。撮影した当時は京大に STORM はなかったので、シンガポールの大学で撮影しました。
元々、私が留学していたアメリカの UCSF に Nikon Imaging Center があり、その施設にある STORM
を使って別の細胞の観察をしたことがありました。なので、ある程度は見られることが分かっていたという背景があります。さらに、シンガポールの大学でPIをしている高校の同級生が超解像度の研究でニコンの
STORM を持ってたので、今回応募した画像はシンガポールでニコンの STORM を使って撮ったものです。
そうだったんですね。今回の画像によって細胞骨格系が病態形成に関与して胃ることを解明した先生のご研究に大変興味を惹かれました。
― ありがとうございます。私はただ見たかっただけです。何かきっとありそうだから、新しい顕微鏡を使えば、これまで見れないものが見れるだろうと思いながらいつも研究していましたが、たまたま今回は予想通りというか、うまくいった例です。
超解像度は面白いですよ。私は人が見られないものが見られるということが好きなんです。今回の画像も世界で初めて見たのは私なので、そういうことを研究のmotivationにしています。
今回は精子細胞にフォーカスしたご研究でしたが、細胞の分化に mDia のみならず細胞骨格系が重要だという知見はあるのでしょうか?
― もちろんあります。アクチンモノマーはマグネシウムと ATP を混ぜれば重合するんですけど、重合因子と呼ばれる mDia や
Arp2/3 を加えるとその重合が早くなります。ただ、 重合因子の違いによって出来るアクチン繊維の形が違い、 mDia
で重合されたアクチンは直線状になるんです。一方で、Arp2/3 で重合されたアクチンは蜘蛛の巣みたいな形になります。
細胞は基本的に丸か四角っぽいですけど、精子は特徴的な形をしてますよね。でも、精子の前駆細胞は丸い細胞なんですよ。おそらく、セルトリ細胞と細胞間接着していく過程でアクチンを介した力などによって少しずつしぼられたような形が作られていく可能性があることが今回の研究で分かりました。
iPS 細胞や ES 細胞を使って精子を分化させるという研究もされていて、精子に近いものへ iPS
細胞からも分化は出来るんですけど、丸いままで精子の形はしていないです。要するに、支持細胞との相互作用がないと精子の特徴的な形はできないです。精子が特徴的な形をしてるのは理由があって、おそらくアクチンの力で細胞間接着を介して少しずつ形を整えていくという感じだと思います。なので、mDia
欠損マウスの精子は形が鎌状にはならなくて、どちらかというと丸や四角に近い形をしているように見えるんですよ。
今回のご研究の答えはナノレベルの世界にあったということでしょうか?
― そうですね。個体レベルの不妊とか精子が出来ない、受精が出来ない、子供が出来ないことを調べていたら、答えは数十 nm の世界にあったということに驚きました。ただ、顕微鏡で初めてその構造を見たときは、その驚きを感じる前にただ綺麗さに感動したというのが一番だったような気がします。まず見えることでエキサイティングして、ここまで細かいアクチンの構造を蛍光顕微鏡で見ているのは私たちくらいしかいないのではないかと思いました。でも、綺麗というだけでは論文にならないので、精子が出来ない理由を解明するのに撮影してから何年もかかったんです。画像が撮れたのは 2015 年でしたが、論文が出たのは 2018 年ですから、ラグが3年間ぐらいありました。
やはり1つの研究を形にするまでには時間がすごくかかりますね。
― 研究に限らずですけど、1つの仕事を良いものにしようと思えばどんなプロジェクトでも時間はかかりますよね。
タムケオ先生、今日は先生の「見る」ことへの情熱が伝わる貴重なお話をありがとうございました。改めて、優秀賞受賞、おめでとうございました。
― ありがとうございました。