メダカ初期胚の内部では、極めて動的かつ
協調的な細胞分裂プログラムが進行しており、
体細胞モデルとは異なる神秘的な仕組みが存在することが分かった。

由来種         :Medaka Oryzias latipes, OK-Cab strain
器官・組織・細胞(株)名:受精卵
染色・ラベル方法等   :マゼンタ(内在性 RCC1-mCherry):染色体
             緑(EGFP-alpha-tubulin:微小管
             両者ともCRISPR によるゲノム編集で作成
観察手法        :共焦点、倒立
対物レンズ       :20倍
作品画像取得年     :2022

清光 智美沖縄科学技術大学院大学 細胞分裂動態ユニット 准教授
清光 愛沖縄科学技術大学院大学 サイエンスアンドテクノロジーグループ サイエンスアンドテクノロジーアソシエイト
メダカ初期胚の協調的かつ神秘的な細胞分裂ダイナミクス
2024 最優秀JOICO賞

受賞コメント

清光 智美 / 清光 愛

(左:清光 智美 、 右: 清光 愛)

最優秀 JOICO 賞に選出して頂き、大変光栄です。
サポートして下さった方々に、心より感謝致します。
メダカは日本人に馴染み深い生き物ですので、是非多くの方に見て頂き、生命の始まりは実に美しく、実に奥深いことに、共感頂けると嬉しいです。
メダカ初期胚の研究は始めたばかりですが、卵割と体細胞分裂の違いに、日々驚かされています。
これからも「視る」ことを通じて、生命の神秘に触れ、少しでもその理解に貢献できれば嬉しいです。

研究の概要

ゲノム情報を担う染色体は一個体のアイデンティティの根幹であり、受精に始まる一連の有糸分裂2サイクルにおいて安定に維持、継承される必要があります。
過去 100 年以上に渡り、酵母や培養細胞など、比較的単純なモデルを用いて、有糸分裂の主要遺伝子や基本的な仕組みが同定されてきました。
しかし、有糸分裂サイクルを俯瞰的に眺めると、動物の初期胚3分裂(卵割)は体細胞分裂4とは極めて異なる特徴を有しています。
例えば、受精卵は極めて大きく、ゲノムからの転写は抑制されています。また DNA 複製の仕組みや、細胞周期制御にも違いがあることが報告されています。
このように体細胞と比較し、極めて特殊な受精卵や初期胚細胞において、染色体はどのようにして正確に娘細胞に分配されるのでしょうか ?
本研究から、メダカ初期胚細胞は、約 30 分という短い間に、DNA 複製と、染色体分配を正確に遂行していることが分かりました。
最近、マウスやヒトの受精卵では、染色体分配エラーが高頻度で起こると報告されていますが、私たちの画像からは、メダカ卵割期では、ほとんど染色体分配エラーは観察されませんでした。
詳細は割愛しますが、メダカ初期胚では細胞周期や染色体分配の正確性を保障するチェックポイントが機能していません。
メダカ初期胚細胞は、どのようにしてチェックポイントにも頼らず、約 10 分の短い時間で、機能的な紡錘体を形成し、染色体を正確に捕捉・分配できるのでしょうか?
また初期胚紡錘体の特殊構造の形成や構造変化の仕組み、それらの種間での保存性はどのようになっているのでしょうか ?
今後もイメージング技術を活用し、これらの課題やその他の疑問に取り組んでいきたいと考えています。
Kiyomitsu A, Nishimura T, Hwang SJ, Ansai S, Kanemaki MT, Tanaka M, Kiyomitsu T.
Ran-GTP assembles a specialized spindle structure for accurate chromosome segregation in medaka early embryos.
Nature Communications. 2024, 15(1), doi: 10.1038/s41467-024-45251-w

用語解説

1.紡錘体

微小管を主成分とし、様々な微小管結合タンパク質から構成される巨大な構造体。
全ての真核生物で分裂期に形成され、染色体の分配のみならず、細胞分裂方向や分裂箇所を決める役割も担う。

2.有糸分裂

凝縮した染色体が糸状の微小管によって捕捉され、娘細胞に分配される分裂形式のこと。
本稿では、受精前の減数分裂と区別し、受精後に起こる細胞分裂を意味する。

3.初期胚

受精から間もない時期の胚。
本稿では、受精から5-6時間程度までの、細胞成長を伴わない細胞分裂期(卵割期)にある胚のことを指す。

4.体細胞分裂

本稿では、細胞成長を伴う、一般的な体細胞の細胞分裂として、細胞成長を伴わない卵割と区別する意味で使用している。

5.真核生物

バクテリアとは異なり、細胞の中に核を持つ生物の総称。

6.細胞極性

細胞内外の構成因子が偏って分布し、細胞が非対称性、方向性をもつこと。
細胞分裂の際、染色体は均等に分配されるため、それ以外の細胞極性に関する因子が、最終的に娘細胞間で違いを生み出し、細胞の種類の増加につながる。

7.CRISPR/Cas9

バクテリアの獲得免疫機構の一部を応用した遺伝子編集技術。
設定した約20塩基からなるゲノム上のDNA配列を認識し、切断することで、遺伝子の改変を誘導する。

8.改良型オーキシン誘導デグロン

標的タンパク質を分解する技術の1つ。
DNAやmRNAを標的とする従来の技術とは異なり、タンパク質を特異的かつ速やかに分解誘導できるため、卵由来のタンパクで駆動される初期胚分裂の機能解析に大変有用。

9.ノックイン系統

ゲノム編集技術を用いて、蛍光タンパクやオーキシ誘導デグロンタグなどの外来遺伝子を、ゲノム上の特定遺伝子領域に組み込んだ遺伝子組換え系統のこと。

10.RCC1タンパク質

真核生物に保存された染色体結合タンパク質であり、低分子量GTP結合タンパク質Ranを、GDP結合型(不活性型)から、GTP結合型(活性型)に変換する活性を持つ。
核内外輸送や、紡錘体形成、核膜形成に機能する。

11.ホモ接合体

二倍体生物では、ある1遺伝子は、父型由来、母型由来の2ヶ所の染色体に存在している。
その2つの遺伝子が全く同じである個体をホモ接合体、異なる個体をヘテロ接合体と呼ぶ。

12.胞胚期

メダカにおいては、受精後5-6時間経ち、細胞数が1000個程度となった胚を指す。
この時期の細胞は、卵割を終了し、転写が開始するなど、初期胚細胞とは異なった振る舞いを示す。

13.中心体

精子由来の中心小体をもち、微小管形成中心として機能する細胞内構造体。
メダカ初期胚の紡錘体では、細胞分裂前に常に核の両側に位置し、紡錘体の2極性構造の速やかな確立を促して見えるが、分裂期中期以降には、紡錘体極から離れる傾向にある。

作品の利用について

NIKON JOICO AWARD 受賞作品の利用方法についてご紹介します。

ABOUT HOW TO USE

審査員講評

  • 芸術性においては、受精卵の連続的な細胞分裂の様子を捉えた、非常に神秘的で印象的な動画である。
    学術面では、細胞分裂ダイナミクスの分子メカニズムの一端を解明した研究であり、その学術的価値は高い。
  • ただ単に美しいだけでなく、非常に多くの生物学的なインサイトを与える。極めて面白い動画であると言える。
  • メダカ初期胚の細胞分裂が協調的に、極めて正確に進んでいく様子が、神秘的で心地よく感じる。
    短時間でDNA複製と、染色体分配を正確に進んで行く様子を可視化した優れた作品である。
  • synchronicity, Coincidenceを直観させるのに恰好の動画。
  • 分裂直前に光る染色体が美しく、生命の根源を象徴する美しさを感じた。
  • リズミカルかつ均等に増殖していく模様が心躍る気分にさせてくれる作品。
  • 細胞分裂していく様子が、一定のテンポでリズミカルなところが面白いし、分裂時の緑の点発光も神秘的で美しい。
  • テーマと優しい光や色合いがマッチしている印象を受け、神秘的で魅力的に感じた。
  • 発光しながらリズミカルに分裂していく様子や、それぞれの細胞の有機的な円形状など、瞬間の形状と動き両面から魅力的だと感じた。
  • 顕微画像に疎い自分でも、イメージができる細胞分裂の動きではあるが、分裂する前にちらと光る部分に命を感じ、感動した。