2 種ポリマーの併用使用が生体ナノマシンの運動誘導効率を高める 拡大
2 種ポリマーを用いたマイクロ流体デバイスの表面不活化処理により、
効率的に微小管の動きを制御できることが分かった。

由来種         :ブタ
器官・組織・細胞(株)名:微小管(脳)
染色・ラベル方法等   :ATTO565-NHS 標識(シュードカラーで表示)
観察手法        :蛍光、倒立
対物レンズ       :60倍
作品画像取得年     :2024

井上 大介九州大学 大学院芸術工学研究院 准教授
2 種ポリマーの併用使用が生体ナノマシンの運動誘導効率を高める
2024 特別賞

受賞コメント

井上 大介
この度は NIKON JOICO AWARD 芸術特別賞を賜り、誠にありがとうございます。
微小管は細胞形態や極性を司る重要な細胞の構造要素であるとともに、ナノテク材料としても魅力的です。
学生時代より、Nikon の顕微鏡を用いて微小管が描く魅惑的なパターンを撮像し、分子バイオアート作品として発表してきました。
今回の受賞を励みにして、今後も微小管に秘められた可能性について、科学、工学、芸術の多角的な観点から探求して行きたいと思います。

研究の概要

繊維状タンパク質である微小管1は、キネシンモータータンパク質2を固定した基板の上で動く特殊な生体材料です。
微小管は全長数十ミクロン、直径 25 ナノメートル(人の髪の毛の 4000分の 1 程度の太さ)という極小のサイズでありながら、強い力を発揮することから、以前からナノテクノロジーの分野において、生体由来のナノマシン 3として期待されています。
主な用途としては、微小物質の輸送や濃縮、分離、材料の微小変形を感知するセンサーなど、人間が作る機械ではできない仕事をさせることが可能です。
今回、NOAを用いた表面の不活化処理によって、微小管の運動を簡単に制御できるようになりました。
これにより、微小管とキネシンという特殊な生体動力材料の応用可能性が広がることが期待されます。
さらに、この技術は微小管に限らず、他の培養細胞の動きを制御する用途にも応用が考えられ、NOA の表面をポリマー以外の材料で修飾することで、より高機能なマイクロ流体デバイスの設計も容易になるかもしれません。
また、マイクロ流体デバイスは、微小管やタンパク質などの生体材料の機能を、細胞サイズの微小空間で評価するツールとしても応用が期待されます。
今回開発した NOA 表面の不活化処理法は、NOA 製のデバイスに対する解析対象のタンパク質の非特異的な吸着を抑制するため、顕微鏡によるイメージングの品質向上にも寄与すると考えられます。
Daisuke Inoue.
Surface Passivation of Norland Optical Adhesive Improves the Guiding
Efficiency of Gliding Microtubules in Microfluidic Devices.
Nano Letters. 2024, 24(35), doi: 10.1021/acs.nanolett.4c02015

用語解説

1.微小管

微小管は構成材料であるαβ-チューブリンというタンパク質が連なってできる直径25ナノメートル、長さ約数十マイクロメートルの中空状の生体繊維。
微小管は細胞内の物質輸送のレールとしてだけでなく、細胞の形態維持や染色体分離、繊毛運動など、細胞内で様々な役割を果たしている。

2.キネシンモータータンパク質

数十ナノメートル程度のタンパク質で、2つの微小管結合部位を有する。
生体のエネルギーであるアデノシン三リン酸(ATP)を高効率に消費して、2つの微小管結合部位を交互に繰り出すことで、微小管上を2足歩行する。
微小管を道路として細胞内輸送を担う。
本研究では、逆にキネシンをガラス基板に固定し、その上で微小管を動かしている。

3.生体ナノマシン

タンパク質やDNAなどの生体高分子を基盤として設計される、分子レベルのマシンである。
自己組織化や分子認識など生体由来の性質を巧みに利用して設計され、医療やナノテク分野など幅広い分野において応用できる可能性を秘める。

4.マイクロ流路デバイス

非常に細い通路内において液体の流れを正確に制御する装置である。
このデバイスを用いることで、微小空間における化学反応や生体のミクロな現象を、より空間的に規格化された環境下で解析したり、制御することができる。

5.Norland Optical Adhesive, NOA

Edmund社から販売されている光硬化性樹脂。
紫外線(UV)照射により、迅速に硬化する。
マイクロ流体デバイス作成に広く使用されているSU8などの光硬化性レジンと異なり、ガラス基板との接着性が良いため、基板の前処理などが必要ない。

6.フォトマスク

微細なパターンをガラスや石英などに描画した板状の部材であり、部分的に光を透過させる。
半導体の製造工程などで微細パターンを基板上に転写する際に用いる。
今回は、光硬化性樹脂のNOAを局所的に硬化させ、微細構造を作るために使用した。

7.ポリジメチルシロキサン(PDMS)

UV光で硬化するNOAと異なり、熱硬化型のシリコーン系エラストマーである。
マイクロ流体デバイスなどの作成に、幅広く使用されている。

8.チオール - エンクリック反応

チオール基(-SH)とアルケン(=エン)の共有結合、ラジカル(不対電子をもつ分子)存在下で反応促進。
NOAの材料表面には、ビニル基(-CH=CH2)が露出しており、チオール基を持つPEGを反応させることで、NOA表面へのPEG修飾を達成した。

9.ポリエチレングリコール(PEG)

エチレングリコールの重合体で、水溶性、中性のポリマー。
タンパク質との相互作用が弱く、マイクロ流体デバイスやプラスチック微粒子などの表面不活化に用いられる。

10.Pluronic F-127

ポリプロピレンオキサイド(PPO)からなる中央の疎水性ブロックと、
その両側にあるポリエチレンオキサイド(PEO)の親水性ブロックからなるトリブロック共重合体。
PPOの疎水性ブロックは疎水的な材料基板と相互作用しやすく、PEO部位がタンパク質などの生体材料が材料基板に非特異的吸着することを抑制する。

作品の利用について

NIKON JOICO AWARD 受賞作品の利用方法についてご紹介します。

ABOUT HOW TO USE

審査員講評

  • 引き込まれるような美しさ。ワープしそう。
  • まるで、ポロックのような絵画とブラックホールが融合されたかのような幻想的な感じを抱かせられる。
  • 漆黒のサークルと周囲のエネルギーに満ちた繊細な繊維質の光のうごめきはまさにブラックホールのようで美しく吸い込まれそうになる。
  • インパクトのある中で精緻な輪の形が強烈に印象に残る作品。
  • 複数色の繊維のような光が重なりあうことでの深みを感じる。2重になった皆既日食のような異様な世界観を醸し出しながら、繊細な輝き方が美しい。
  • 吸い込まれるような勢いが素晴らしい。
  • 多彩な色を持った有機的な形の線の重なりにより、所々に眩い光が見られており、顕微鏡世界の中での美しい光を感じられた。
  • 糸で創るアートのようにも見え、ビジュアルのインパクトが強い。
  • 科学的な研究ではあるものの、人の網膜にも見えるような作品で、とても惹かれました。イエロー・ゴールド系の色彩も、この研究分野での未来をイメージさせる。