マウス精巣由来のセルトリ細胞の初代培養
サンプル詳細:Alexa647-Phalloidin 染色
Z 軸方向:-300 ~ 300 nm を pseudo color 表示
観察手法 :超解像顕微鏡、倒立、蛍光
観察倍率 :100X
撮影年 :2015
顕微鏡データ:静止画
タムケオ ディーン 特定准教授
精細管内で精細胞と相互作用しながら、精子形成を支持する大型の体細胞である。従来精細胞への栄養供給、血液精巣関門の形成が主な機能だと考えられてきたが、その他の機能については未だに不明な点が多い。
細胞と細胞の間を物理的に結合させる分子。代表的な分子として、claudin、cadherin、nectin などが知られている。
細胞間接着分子の接着力を調節する、太いアクトミオシンの繊維束と細いアクチン繊維からできている構造体で、catenin という分子を介して、細胞接着分子とつながっていると考えられている。
細胞骨格は微小管、中間フィラメントとアクチン繊維の3種類が存在し、物理的に細胞の形を支えるのに加え、細胞運動や細胞分裂など、様々な細胞の機能にも深く関わっている。
Stochastic Optical Reconstruction Microscopy(確率的光学再構築顕微鏡)の略語で、蛍光色素の on と off 状態という性質を利用し、一度に一部の蛍光色素のみをon 状態にすることによって、分子の位置情報を数 nmの単位で正確に割り出す。これを何度も繰り返すことによって最終的にはほぼ全ての分子の位置情報が得られ、その情報に基づいて計算により画像化を行う。STORMは一般的に従来の光学顕微鏡よりも最大で約 10 倍の分解能(XY 軸)の画像が得られるとされる。
mDia はフォルミンファミリーに属するアクチン重合活性を持つタンパク質であり、哺乳類では mDia1, mDia2及び mDia3 の 3 つのアイソフォームが存在する。これまでの研究により、mDia2 は細胞分裂時のアクチン重合に関わっていることが分かっている。一方、mDia1 とmDia3 は、機能が重複しており、急速なアクチン重合が必要である細胞分裂以外(例えば細胞運動、細胞間接着の調節など)の時に働くことが少しずつ明らかになってきている。
モーター分子であるミオシンがアクチン繊維に結合して、形成されるアクチン繊維束の構造体である。ミオシンがATP を加水分解すると収縮力を発生する。
試験管内でアクチンの単量体に適切な量の ATP とMgCl2を加えればアクチンは一定の速度で自発的に重合し繊維構造をとるが、アクチン単量体結合タンパク質プロフィリンの存在下では mDia1 などのフォルミンファミリーによってこの重合速度が飛躍的に増大する。
Espin はアクチン繊維を束化させる活性をもつアクチン結合タンパクである。Espin によって束化されたアクチン繊維はアクトミオシンとは違い、収縮することはできない。
Q1 本研究で解明された mDia1/3タンパク質は、精子細胞より前の精原細胞、精母細胞にも重要な働きをしているのでしょうか ?
本研究では、丸い形をしている円形精子細胞(round spermatid)が楕円形の形をしている伸長精子細胞(elongatedspermatid)・精子ヘの分化に、セルトリ細胞での mDia1/3 の働きが不可欠であることを明らかにした。さらに、それに加えて、セルトリ細胞同士の細胞間接着で形成される血液精巣関門にも寄与していることを示した。この血液精巣関門は精原細胞・精母細胞に適した微小環境維持に関わっているとされているので、mDia1/3 はこれら細胞の分化の進行にも影響を与えている可能性が考えられる。
Q2 mDia1/3 二重欠損の場合に起こる、アクチン重合速度の違い、またメッシュ孔のサイズの違いでなぜ精子の形態異常がおきるのでしょうか ?
精子の形態形成には、精子細胞とセルトリとの結合が不可欠であるが、細胞間接着分子の接着力を調節するのは細胞間接着分子を裏打ちするアクトミオシン束とそれにつながっている細いアクチンのメッシュ構造体である。これらのアクチンは重合と脱重合を繰り返して、絶えず remodeling が起こるが、mDia1/3 を二重に欠損させると、アクチン重合が脱重合に追いつかず、結果的にアクチンフィラメントの総量が減少し、細胞間接着の裏打ちアクチンが弱くなり、接着が外れやすくなっていると考えている。
Q3 少子化が社会的な問題となっていますが、今回の mDia1/3 の新たな知見は、今後の男性不妊の診断や治療開発へどのようにつながっていくと考えられますでしょうか。
男性不妊の原因の多くを占める精子形成障害のうち、約半数は原因不明ですが、本研究ではセルトリ細胞内のアクチン細胞骨格系の異常が男性不妊の原因の一つになりうることを示し、診断には mDia1/3 遺伝子の変異が有用である可能性を示唆した。また、本研究では、一部の精子形成の障害の原因がセルトリ側の問題であることを明らかにしたことから、セルトリ細胞を標的とした不妊治療法開発(変異した遺伝子の導入によるレスキューあるいは変異遺伝子の機能を補うような薬物の創薬)の可能性も提唱したい。