マウス精巣上体頭部
サンプル詳細:青:核(Hoechst 33342)
:緑:F アクチン(Alexa Fluor 488 標識ファロイジン)
:赤:OVCH2(一次抗体:抗 OVCH2 抗体(ウサギ)、
二次抗体:Alexa Fluor 546 標識抗ウサギ IgG)
観察手法 :倒立顕微鏡・蛍光 観察倍率 : 20x
撮影年 :2020
顕微鏡データ:顕微鏡データ :静止画
淨住 大慈
精巣上体のうち最も精巣に近い側から、頭部、体部、尾部と呼ぶ。精子の成熟は主に精巣上体頭部が担っており、精子に作用する様々な因子が発現している。
精巣上体に発現する分泌プロテアーゼであり、OVCH2の発現は精巣から分泌されるNELL2によって制御されている。OVCH2は精子表面のADAM3に作用することで精子の成熟に必須の役割を果たしている。
細胞の外へと分泌され、そこで蛋白質を切断する酵素。非特異的にタンパク質を分解するタイプと、特定の基質のみを切断するタイプとがある。特に後者の基質となるタンパク質は切断によって分子機能が制御されることが多い。
精巣で作られた精子の成熟、輸送、貯蔵を担う器官。高度に折りたたまれた上皮性管腔であり、その引き伸ばすと長さはマウスでは1m、ヒトでは4-5mにもなる。
精巣で作られたばかりの精子には泳いだり卵と受精する能力がない。この未熟な精子に何らかの変化が生じて受精に必要な能力を獲得すること。精子成熟は精巣上体が担っている。
精巣で作られる分泌タンパク質。精巣上体がOVCH2を発現し精子を成熟させる機構を制御しており、精巣上体に発現する受容体ROS1に結合する。NELL2を欠くと精子成熟機構がオンにならず、精子が成熟できなく なり雄は不妊となる。
分泌因子が管腔を通じて分泌送達されること。ルミクリンによって分泌因子は発現部位から離れたところまで作用することができる。
上皮細胞が作るシート状組織がさらに管状構造となったもの。精巣上体や卵管などの生殖器官だけでなく、消化管、腎臓、分泌腺など体の中にはさまざまな上皮性 管腔がある。
精子の細胞表面にある膜タンパク質。精子の成熟に不可欠であり、ADAM3を欠損するマウスもまた精子成熟不全によって不妊となる。
多くのタンパク質は必要とされるとき以外は機能しないように不活性な前駆体型として作られる。前駆体はプロテアーゼによる部分切断のような翻訳後修飾を受けること で成熟型に変換され、はじめて分子機能を発揮する。
タンパク質に分子構造の変化を伴う何らかの処理が施されること。多くの場合はプロテアーゼによる切断を意味する。
Q1 精巣上体が精巣を成熟させるメカニズムに着目した理由はなんですか?またどのようにOVCH2がそのメカニズムに必須であることを発見されたのでしょうか?
精巣上体による精子成熟メカニズムについてはこれまでほぼブラックボックスでした。精巣で発現するNELL2のノックアウトマウスの不妊の原因を調べると、精巣上体において、本来プロセシングされるべき精子タンパク質に異常が生じていることを見出しました。この知見から、精巣がNELL2を通じて精巣上体の精子成熟機能をオンオフ制御していること、そして精子成熟機構の実行役は恐らく分泌プロテアーゼであることがわかり、NELL2によって制御されるプロテアーゼを探索した結果OVCH2がプロセシングに関与していることを発見することができました。
Q2 OVCH2の発現、また制御メカニズムでわかっていることはありますか?
OVCH2のが発現しているのは、精巣上体の中でも精子成熟を担う頭部に特異的です。この精巣上体頭部でのOVCH2の発現は、精巣で作られるNELL2によるルミクリンシグナル伝達によって、厳密に制御されています。精巣で発現するNELL2の量は動物が性的に成熟する思春期に上昇しますので、精巣上体頭部におけるOVCH2の発現も、精子の成熟にとって必要なタイミングでのみ発現が誘導されるよう巧妙に制御されています。
Q3 精巣上体が管腔構造、かつ高度にコイル化した構造をとることと、この精巣上体内で2週間かけて精子の成熟プロセスが進むことは何か関係があるのでしょうか?
精子はいったん作られたあとは自分自身を自律的に成熟させることができないため、外部の環境の助けを必要とします。この精子成熟のための外部環境を提供しているのが精巣上体です。一日に数千万から一億個もの精子が精巣で作られ次々と送り出されますが、これら大量の精子をじっくりと時間をかけて確実に成熟させるために精巣上体は長くなり、またそれをコンパクトに納めるために高度にコイル化したのではないでしょうか。