ダイヤモンドを遷音速伝搬する結晶欠陥 拡大
フェムト秒・ナノメートル超解像 X 線イメージングから、
超高速変形する材料(ダイヤモンド)において、
結晶中の欠陥が横波音速を超えることが明らかとなった。

サンプル情報      :ダイヤモンドの情報が転写されたフッ化リチウム結晶
             LiF 結晶中に分布したカラーセンター集団
染色・ラベル方法等   :フェムト秒パルスX 線自由電子レーザー照射
観察手法        :蛍光、共焦点、倒立
対物レンズ       :10,20倍
作品画像取得年     :2022

尾崎 典雅大阪大学大学院工学研究科 准教授
ダイヤモンドを遷音速伝搬する結晶欠陥
2024 特別賞

受賞コメント

尾崎 典雅
科学的な成果に対してはもちろんですが、超高速イメージングのためのアイディアと技術、また画像そのものにスポットを当てていただけたように感じ、大変嬉しく思います。
日仏を中心としたメンバーによる国際共同研究開発を、長らく継続してきたため感慨深くもあります。
「パワーレーザーと物質」の研究は、普段感じることのできない驚きやドラマ性に満ちています。
既に新しい実験に着手したところですが、誰も見たことのない“写真”をまた撮りたいと思っています。

研究の概要

結晶材料中の“欠陥”が物質固有の音速1よりも速く伝播することを、X 線自由電子レーザー2を用いた独自のフェムト秒・ナノメートル解像 X 線ラジオグラフィ3により実証しました。
半世紀以上未解決の問題に、共焦点蛍光顕微鏡を組み合わせた全く新しい観察で挑みました。
一般の固体材料の永久変形において結晶欠陥4が重要な役割を果たしていると考えられています。
結晶中の転位5をはじめとした欠陥の伝搬速度が、その物質固有の音速を超えるか否かという問いについて、数多くの理論や計算による研究が行われてきました。
これまで発表された論文の多くは、“結晶中の転位の伝播速度は横波の音速を超えない”と主張しており、転位論の教科書でもしばしば同様の説明が見受けられます。
しかしながら最新の理論および計算機による一部の研究では、転位が音速を超えて伝搬する可能性を示唆しており、実験による検証が期待されていました。
本研究は、フェムト秒(10-15 秒)パルスの最先端 X 線レーザー光源などを駆使してこの問題の実証に挑んだものです。
50 年以上にわたって信じられてきた欠陥の伝搬速度の限界に対して、世界で初めて得られた直接的な実験による証拠を提示しました。
材料の高速変形を正しく理解することは、宇宙空間での高速衝突がもたらす変形や破壊の予測、レーザー核融合ターゲット材料の高利得化などに直接繋がっています。
このような複雑なダイナミクスを正しくモデル化できれば、コンピュータシミュレーションでの再現精度を上げることができます。
現在、高エントロピー材料12、3Dプリンタ生成ナノ材料など、全く新しいタイプの材料が誕生しており、こういった従来になかったような材料の変形や破壊の理解を先駆けて展開していく予定です。
K. Katagiri, T. Pikuz, L. Fang, B. Albertazzi, S. Egashira, Y. Inubushi, G. Kamimura, R. Kodama, M. Koenig, B. Kozioziemski, G. Masaoka,
K. Miyanishi, H. Nakamura, M. Ota, G. Rigon, Y. Sakawa, T. Sano, F. Schoofs, Z.J. Smith, K. Sueda, T. Togashi, T. Vinci, Y. Wang, M. Yabashi,
T. Yabuuchi, L. E. Dresselhaus-Marais, and N. Ozaki.
Transonic dislocation propagation in diamond.
Science. 2023, 382(6666), doi: 10.1126/science.adh5563

研究メンバー

Tatiana Pikuz
大阪大学 先導的学際研究機構
片桐 健登
スタンフォード大学
Michel Koenig
仏自然科学研究センター
松岡 健之
大阪大学 光科学センター
Burno Albertazzi
仏自然科学研究センター
Anatoly
大阪大学 先導的学際研究機構
※論文発表当時の所属名 

用語解説

1.音速

音波が物質中を伝わる速度のこと。
固体では一般に、波の進行方向と媒質の運動(疎密)が平行な縦波音速と、垂直な横波音速が存在する。
物質にそれぞれ固有の音速があることが知られており、基礎的で重要な物性値である。

2.X 線自由電子レーザー(XFEL:X-ray free electron laser)

光速に近い速度の電子ビームを磁場と相互作用させ、極めて高い周期で蛇行伝搬させると、
波長が短いX線領域の干渉性の高い光、すなわちX線レーザーを発生させることができる。
日本のX線自由電子レーザーSACLAは世界有数の装置である。

3.X 線ラジオグラフィ

試料にX線を透過させてその内部の様子を調べるためのイメージング観察手法。
フェムト秒(1000兆分の1秒)パルスのX線自由電子レーザーを光源として用いることで、
高速の欠陥の伸展を時間分解計測することができた。

4.結晶欠陥

格子欠陥ともいう。
不純物の侵入や原子配列の乱れなど、均質な結晶格子の繰り返しパターンが変化する起源となる。

5.転位

結晶の内部に存在する格子欠陥の一種で、
結晶を構成する原子が本来の規則的な配置から、原子レベルで位置ずれした状態、またはその位置ずれそのもののこと。

6.ハイパワーレーザー

光のエネルギーを非常に短い時間に集中させることで、極めて高い強度を実現するレーザーの総称。
今回用いた光学レーザーは、パルス幅がナノ秒(10億分の1秒)のパルスレーザーである。

7.硬 X 線

光子エネルギーが高く、透過能の高いX線。
おおよそ数10eV~100keV程度の範囲のエネルギーを有するもの。

8.フッ化リチウム(LiF)結晶

フッ素とリチウムからなる天然にも存在する化合物で、化学組成の表記ではLiFとなる。
本研究では人工合成の品質の良い単結晶を用いている。

9.積層欠陥

面状の拡がりを持つ格子欠陥の一種。
三次元の結晶は、二次元の広がりを持つ原子の並んだ面が周期的に積み重なることで構成されていると考えることができる。
その重なりの周期性の乱れが積層欠陥である。

10.塑性変形

物質に弾性限界を超える外力を加えた際に起こる永続的な変形のこと。
図2の塑性波はこの変形の波頭になる。

11.ダイヤモンド結晶格子のすべり面

結晶には構造によってそれぞれ固有のすべり面があるとされ、すべり面に沿って原子位置がずれやすくなっている。
ダイヤモンドの場合はそのすべり面に沿って割れやすい性質がある。

12.高エントロピー材料

多数の異種元素を原子レベル、高濃度で混合した材料の総称。
高エントロピー合金は、一般には5種以上の成分を等しい濃度で固容した合金のこと。

作品の利用について

NIKON JOICO AWARD 受賞作品の利用方法についてご紹介します。

ABOUT HOW TO USE

審査員講評

  • 普段とは違う何かが起こりそうな1日の朝日を感じさせる芸術性に溢れた画像である。
    “結晶のズレ(欠陥)”が、物質固有の音速よりも速く伝播することを実証した極めて興味深い成果である。
  • 学術的にも優れている。砂漠の向こうで爆発が起きているような雰囲気。
  • 極限的なストーリー。XXを超えるという表現は確かに強い。
  • 模様や色調から何かの起源を彷彿とさせるような神秘的な作品。