由来種 :ゼブラフィッシュ
器官・組織・細胞(株)名:皮膚
染色・ラベル方法等 :血管特異的kdrl(vegf-r)プロモーター下でEGFPを発現する
トランスジェニックゼブラフィッシュ
観察手法 :共焦点
対物レンズ :20倍 XLUMPlanFL N, 1.00 NA, 水浸
作品画像取得年 :2015
弓削 進弥(左)、福原 茂朋(右)(日本医科大学)
西山 功一(宮崎大学)
既存の血管から新しい血管枝が出芽・伸長する生命現象。既存の血管が嵌入して複数に分断する現象も含めて言うことが多い。本研究では、前者の新しい制御機構を解明しました。
樹脂・ガラス・シリコンなどを用いて、nm~mmのスケールで平面上ながらも3次元に入り組んだ構造に加工した装置。本研究では、本装置で血管新生を3 次元で再現できる実験系を確立しました。
管状・袋状の器官・構造物の内側の空間に液体や気体などが入り込んで内側から押す圧力。本研究の血管管腔では血液が流れ込んで押す力が内腔圧。風船が空気で膨らんでいる状態も内腔圧が生じていると言える。
細胞内シグナル伝達をアクチン重合へと仲介する分子。Cdc42やRac、本研究のTocaファミリー分子などがN-Wasp に結合して、N-Wasp がアクチン重合促進因子Arp2/3 複合体を活性化して、Arp2/3 複合体が枝状のアクチン重合を促す。このアクチン重合により、細胞の遊走に必要なフィロポディア(糸状仮足)やラメリポディア(葉状仮足)が形成される。
血管新生を促すタンパク質の液性因子。創傷や癌で虚血に陥って低酸素状態になった組織では、低酸素誘導因子HIF-1が活性化されて、HIF-1 によって転写が促進されたVEGF が血管新生を促す。本研究では、創傷時の血管新生では、そのような化学的な制御だけでなく、内腔圧による力学的な制御も働くことも示しました。
血管内で、血流が流れて、流れる方向と水平に血管壁に加わる摩擦力。心拍動により血管壁に垂直に作用する圧力と異なる。本研究で示した、損傷後に先端が閉じた血管に血流が来てかかる内腔圧とも異なる。
一般的にin vivo は「生体内」、in vitro は「試験管内」です。本研究では、生きているゼブラフィッシュで血管新生を解析した実験をin vivo、微小流路デバイスで再現して血管新生を解析した実験や培養細胞で血管内皮細胞の動態を解析した実験をin vitro としました。
体の中心を走る背側大動脈・後部主静脈・尾部静脈とより背側にある背側縦断血管を結ぶ血管。血液が背側大動脈から背側縦断血管に流れるものを動脈系節間血管、血液が背側縦断血管から後部主静脈・尾部静脈に流れるものを静脈系節間血管として区別することもあります。
分子内に細胞膜と結合するBAR domainを持つBAR 領域含有タンパク質の一種。遊走している細胞の細胞膜に結合してアクチン重合による先導端の形成を調節する分子ファミリー。TOCA1、CIP4、FBP17 の3 つ、そのうちTOCA1とCIP4が血管内皮細胞で多く発現している。これらの分子は、伸展している細胞膜には結合できずに機能を失うため、内腔圧による伸展刺激を感知できる分子、すなわち内腔圧メカノセンサーだと考えられた。本研究では、TOCA1とCIP4 が血管内皮細胞で多く発現して内腔圧を感知するメカノセンサーであることを示しました。
Q1内腔圧、とは動脈と静脈によって異なるのでしょうか?
また内腔圧センサーのTOCAファミリーが感知する圧力は、血管の場所や動脈、静脈による違いはあるのでしょうか?
本研究での内腔圧という概念は、動脈でも静脈でも同じです。
血管が切断されて血流が遮断された後に損傷血管の先端に血流が来て負荷される圧力であるため、動脈でも静脈でも損傷後では同じです。
ですが、負荷される内腔圧は動脈側で損傷した血管でより大きくなっているかもしれません。
TOCAファミリー分子が内腔圧の大きさに応じて機能を変動させるかどうかは、血管が損傷した場所によって負荷される内腔圧の程度は異なるでしょうから、今後研究してみたいです。
Q2内皮細胞の前後軸極性の形成と内腔圧の関係はあるのでしょうか?
また下流から伸びる血管の方向性はどのように制御されているのですか?
内腔圧は内皮細胞の前後軸極性の形成に影響すると考えられます。
損傷血管の先端で、内腔圧が血管壁を拡張させ、血管壁を構成する内皮細胞を伸展させることで、内皮細胞の前後軸極性が消失します。
ただし、内腔圧が負荷されても伸展刺激が生じない血管では、内皮細胞の前後軸極性には変化が起こりにくいです。
これは重要な点ですので、微小流路デバイスを用いたin vitro実験で示しました。
損傷血管が下流側から伸びて上流側と出会って吻合する現象がスムーズに起こることは、実は単純ながらも大きな疑問で、どのように制御される結果なのか、現在のところ不明ですが、非常に興味を持っております。
Q3今後「血管新生」という研究テーマを通して、さらに先生が明らかにしたいことは何でしょうか?
本研究で「創傷組織で内腔圧が血管新生を制御する現象と機構」を初めて示しましたが、その生命現象にどんな意味があるかはまだ分かっていないため、まずその生理的意義を明らかにしたいです。
創傷部位が潰瘍化すると血管新生も起こりにくくなります。この時周辺の血管に負荷される内腔圧は高くなっているかもしれません。癌では、未熟で透過性が高く血液が漏れる血管が無秩序に形成されます。
この時これらの血管には内腔圧が負荷されなくなっているかもしれません。内腔圧が生理的で秩序ある血管新生を維持することに貢献するかもしれません。
もしそうであれば血管の内腔圧を調節して創傷や癌を治療する新しい方法を確立できるかもしれません。