マウス由来皮膚
サンプル詳細:H2B-GFP tet-off マウス由来尾部皮膚
緑:H2B-GFP(分裂頻度の低い細胞)
赤:K14(表皮細胞マーカー)
青:核染色
観察手法 :共焦点顕微鏡、倒立、蛍光
観察倍率 :10X
撮影年 :2014
顕微鏡データ:静止画
佐田 亜衣子 特任准教授
上皮とは、体表や組織の表面を覆っている細胞層のこと。皮膚は上皮組織である表皮と、結合組織である真皮から構成される。その他、腸管上皮、角膜上皮、口腔粘膜上皮なども上皮の仲間。上皮組織に存在する幹細胞は、広く上皮幹細胞と呼ばれる。
皮膚の表皮をつくる幹細胞。表皮のターンオーバーや損傷の修復を担う。表皮幹細胞は、基底層に局在し、分化に伴って、上層へと移動する。
毛を取り囲む器官のこと。毛包は層構造をとり、中心部から、毛髪、内毛根鞘、コンパニオン層、外毛根鞘と呼ばれ、毛包幹細胞(毛をつくる幹細胞)は外毛根鞘のバルジと呼ばれる領域に局在する。
表皮と真皮とが解離し、弱い刺激で水ぶくれ(水疱)やびらんが生じてしまう皮膚の疾患。表皮と真皮の接着にはたらくヘミデスモゾーム構成タンパク質の遺伝子異常等が原因となる。
ウイルスベクターを使用し、ラミニン遺伝子を導入した培養表皮幹細胞を移植することで、表皮水疱症の治療に成功したことが、M De Luca らのグループにより2017年 Nature 誌に報告された。
組織の間をうめる支持組織。例えば、皮膚の真皮は結合組織であり、線維芽細胞や細胞外マトリックス(コラーゲンやエラスチンなど)から成る。
染色体の末端にある構造で、細胞分裂に伴い長さが短くなることが知られる。テロメアの長さは、老化やがん化の制御に重要であると考えられている。
幹細胞から産生された比較的未分化な細胞であるが、幹細胞のような長期的な自己複製能をもたない。限られた数だけ分裂し、最終分化へと向かう。
分裂頻度の低い表皮幹細胞のマーカーとしてマイクロアレイ解析により同定した遺伝子。Dlx ファミリーに属する転写因子。
分裂頻度の高い表皮幹細胞のマーカーとしてマイクロアレイ解析により同定した遺伝子。グルタミン酸トランスポーターとしてはたらき、幹細胞やがん細胞の代謝制御に重要な機能を持つ。
細胞の分裂頻度を可視化することが可能なトランスジェニックマウス。ヒストン H2B に緑色蛍光タンパク質 GFPをつなぐことで細胞の核を安定的に標識する。ドキシサイクリンによって転写を抑制している間に起こった細胞分裂の数を GFP の蛍光強度として検出できる。
テトラサイクリンの誘導体で、tet-off システムにおいて転写を止めるのに使用する薬剤。テトラサイクリン依存性転写活性化因子 tTA が、プロモーター配列 TRE に結合するのを阻害する。
細胞や細胞外マトリクスなどの生体材料を用い、組織の損傷等を人工的に再生させることを目的とした医学と工学の融合分野。次世代の医療として注目されている。
Q1 なぜ分裂頻度の違いに着目したのですか ?
皮膚の毛包において、細胞分裂の遅い細胞はバルジ領域に局在し、長期的な幹細胞としてふるまうことが分かっていました。また他の組織においても、分裂頻度の遅い細胞は、特別な機能を持つ細胞として働くことが提唱されていました。しかし表皮においては、組織幹細胞の実態について不明な点が多く、分裂頻度の違いに着目した研究もほとんどなかったため、何か面白いことが見つかるのではないかと考えました。
Q2 皮膚の損傷修復、がんなどの皮膚疾患時には、2 種の分裂細胞の異なる上皮幹細胞のバランスや上皮幹細胞コンパートメントはどうなるのでしょうか ?
そこをまさに知りたい ! と思って研究しております。皮膚の損傷時には、2 種類の表皮幹細胞は、それぞれの系譜に貢献できる可塑性を持っていることが分かっています。がんや皮膚の炎症では表皮幹細胞は活発に分裂する一方で、老化すると分裂能が下がっていきます。異なる状況下で、2 つの幹細胞のバランスやコンパートメントが変わるのであれば、異なる幹細胞集団が存在することの生物学的意義の理解へもつながると考えています。
Q3 上皮幹細胞コンパートメントの制御機構でわかっていることはありますでしょうか。
上皮幹細胞のコンパートメントの制御の一つとして真皮からのシグナルが重要であると言われています。例えば、真皮における Wnt シグナルに応じてコンパートメントのサイズが変わります。また表皮幹細胞の自律的因子、血管のパターンや細胞外マトリクス、力学的環境もコンパートメントの制御に働くと考えていますが、まだ詳細なメカニズムについては分かっていません。