DNAコンピュータによって実装された
人工の分子コントローラにより、
分子アクチュエータである微小管の自発的な集合と
離散を引き起こすことを観察することに成功。

由来種         :化学合成 DNA、ブタ(チューブリン)、
             大腸菌(キネシン、その他酵素)
器官・組織・細胞(株)名:微小管(in vitro 合成)
染色・ラベル方法等   :緑:FAM 標識 DNAと結合した微小管
             マゼンタ:TAMRA 標識 DNAと結合した微小管
観察手法        :蛍光、倒立
対物レンズ       :60倍
作品画像取得年     :2020

川又 生吹京都大学大学院理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 准教授
分子コントローラによる分子ロボット群の自発的な集合と離散
2024 優秀賞

受賞コメント

川又 生吹
この度は NIKON JOICO AWARD 優秀賞に選出いただき、誠に光栄です。
本研究では、生体分子で実装された DNAコンピュータと分子モーターを組み合わせ、自律的に運動モードが変化する分子ロボットを設計し、その挙動を観察することに成功しました。
相性の異なるDNAコンピュータと分子モーターの統合には苦労しましたが、期待した通りの挙動を行う分子ロボットを開発できて嬉しく思います。
今後もアクティブに運動する分子ロボットの開発を続け、興味深い挙動を示す分子システムのイメージングを続けたいです。

研究の概要

自発的に振る舞う分子スケールのロボットを作ることはできるだろうか。
マクロなスケールでは、決まった時間にお掃除ロボットが部屋の掃除を行ったり、人間からの指示なしに工業用のロボットが制御されて製品を組み立てたりする。
いずれの例でも、タイミングを決める「知能」と、モーターのような「アクチュエータ」が連動して機能を達成している。
本論文では、知能とモーターをそれぞれ分子によって実装し、二つのシステムを統合することで、自発的に運動する分子のロボットを開発することに成功した。
本技術は、これまで手動で行っていた分子アクチュエータの制御を自動化したのみならず、異なる分子システムを統合可能な実験条件を見出した点においても新しい。
群分子ロボティクス分野における大きな前進であり、将来的な医療応用などへの実用化9に向けた重要な一歩になると期待している。
Kawamata I., Nishiyama K., Matsumoto D., Ichiseki S., Keya J. J., Okuyama K., Ichikawa M., Kabir A. M. R., Sato Y., Inoue D., Murata S.,
Sada K., Kakugo A., Nomura S. M.
Autonomous assembly and disassembly of gliding molecular robots regulated by a DNA-based molecular controller.
Science Advances, 2024 10, doi:10.1126/sciadv.adn4490

用語解説

1.分子ロボット

センサ(感覚装置)、プロセッサ(計算機)、アクチュエータ(駆動装置)などのロボットを構成するデバイスが分子レベルで設計されており、
それらを一つに統合することで構成される分子のシステム。
今回の分子ロボットは直径25nm、全長約6µmの管状の個体であり、数十µm幅の束に組み立てられ、そして分解されるシステム。

2.DNAコンピュータ

DNA分子を材料に、計算を行う分子レベルのコンピュータを組み上げる技術、および組み上がったシステム。
電子部品を配線するように、複数のDNA分子がどのように相互作用するか設計することで、論理ゲートやニューラルネットワークなどをプログラム可能である。
今回は分子ロボットの集合と離散をプログラムした。

3.キネシン

モータータンパク質と呼ばれる駆動能力を持った分子で、天然では細胞内に存在する。
今回は人工の分子ロボットを駆動するための、エンジンのように働く分子モーターとして活用した。
駆動の過程では、ATPとよばれるエネルギー分子を消費する。

4.微小管

キネシンによって駆動される細長いフィラメント状のタンパク質。
天然では細胞分裂の際に用いられる分子だが、今回は分子ロボットの本体として利用した。

5.トランスデューサ・コンバータ

電気回路では信号の変換機という意味を持つトランスデューサやコンバータという用語を、今回のDNAコンピュータの説明に流用した。
具体的には、DNAコンピュータにおいて、ある情報を持つDNAから別な情報を持つDNAへと変換することができる分子素子に「トランスデューサ」や「コンバータ」と名付けた。

6.ポリメラーゼ

DNAを伸長するタンパク質で、天然では遺伝子の複製に利用される。
複製の際には、鋳型と呼ばれるコピー元のDNAの情報をもとに、プライマーと呼ばれるDNAを伸長する。
今回はポリメラーゼの特性を活用し、人工的に作製したDNAコンピュータを駆動させるために利用した。

7.ニッカーゼ

DNAを切断するタンパク質で、二重らせんDNAを構成する2本のDNAを切断する制限酵素とは異なり、片方だけを切断する。
認識配列と呼ばれる特別な情報を持ったDNAだけを切断することができるため、今回はプログラムした通りにDNAコンピュータを駆動させるために利用した。

8.制限酵素

DNAを切断するタンパク質で、ニッカーゼとは異なり、二重らせんDNAを構成する2本のDNAの両方を切断する。
ニッカーゼと同様に、認識配列と呼ばれる特別な情報を持ったDNAだけを切断することができるため、今回はプログラムした通りにDNAコンピュータを駆動させるために利用した。

9.医療応用などへの実用化

標的特異的に薬剤を届ける技術であるドラッグデリバリーシステム(DDS)に加えて、
その場の状況や外部からの情報入力に応じた時空間上の振る舞いを実現することで、
より効果的かつ安全に体内の特定の部位へ薬剤を届けることを目的とした技術。

作品の利用について

NIKON JOICO AWARD 受賞作品の利用方法についてご紹介します。

ABOUT HOW TO USE

審査員講評

  • 微小管の群れが小魚のように見え、小魚が成長し別の群れと置き換わるように見える。
    自然の美しい動きが芸術性に優れる。
    人手の介入なしに、微小管が群れを形成し、解消する様子を示した成果で、将来の医療応用など実用化が期待される。
  • 動画からは、分子ロボットが、まるで小魚の群れのように海中で優雅に泳いでいるかのような様子がみられ、大きな驚きを感じる。
    学術面においては、DNAコンピューターによって動態制御された分子ロボットの実現に成功し、画期的で「未来」を感じさせる研究成果である。
  • 雪のような「物質」から「生命体」に変質するような躍動感ある変化が面白い。
  • ピンクと緑の分子ロボットが自発光しながら不規則に動く姿が面白く、見入ってしまうような美しさがある。
  • 有機的な線の動きや勢いに面白さを感じた。
  • 全体的に均一に散らばっていた有機的な線が、徐々に集合していきながら強く発光していく全体の流れと、一つ一つの線の動きの面白さが魅力的に感じられた。
  • 単調な画像なのかと思いきや、だんだんと変化する様や光の走り方に美しさを感じた。映像作品として制作されたもののようにも思える。
  • 自発的に引き起こされたという分子の動きが、夜空に咲く花火の様に、鮮やかに散りばめられている様子が美しい。
    後半に向けて、動き方が変わっていく様子もあり、ずっと見届けたくなるような作品。