マウス(DBA1/J)由来炎症関節
サンプル詳細:青:second harmonic generation(線維組織)
方法等 赤:AF647(血管)
緑:CX3CR1(破骨前駆細胞)
観察手法 :二光子励起顕微鏡、倒立、蛍光
観察倍率 :25X
顕微鏡データ:静止画
長谷川 哲雄 副医長
生体内で骨を溶かす能力を持つ唯一の多核細胞であり、単球マクロファージ系の前駆細胞が分化・融合して形成される。生理的環境下では骨の内側(骨髄)に存在し、骨の新陳代謝に関わる一方、関節リウマチでは骨の外側から関節骨を破壊し不可逆的な機能障害を引き起こす。
微量でそのままでは解析できない遺伝子を増幅することで、1 つの細胞の発現遺伝子を網羅的に調べる解析手法。
関節を包む関節包の内側に存在する膜であり、生理的環境下では関節液を産生することで関節の円滑な運動をサポートする。一方関節リウマチでは、炎症を起こして顕著に腫大し、病的な骨破壊に関与する。
関節リウマチにおいて、関節の滑膜組織は炎症を起こして腫大し、骨との接触面に炎症性の肉芽組織を形成する。これをパンヌスとよび、骨や軟骨に浸潤し関節破壊の原因となる。
骨の関節面を覆う弾力性のある組織で、関節のクッションとして働く。
放射線照射や化学療法後に骨髄移植を行うことで、骨髄細胞を他個体由来の骨髄細胞で置換したマウス。特定の細胞や病態が骨髄細胞に由来・惹起されるか評価する際に用いられる。
白血球の 1 種で、全身の組織に広く分布し、主に体内の死細胞や侵入した細菌の消化・貪食に関与する。一方、周囲の微小環境に応じて多彩な機能を獲得し、骨髄では破骨細胞、肝臓ではクッパー細胞、脳ではミクログリアなど各臓器に特異的な特徴を保有する。
骨の内側にある骨髄に存在する細胞。造血幹細胞に由来する血液細胞や、間葉系の細胞が含まれる。
蛍光物質は、通常 1 光子により励起され蛍光を発するが、波長が 2 倍、すなわちエネルギーが 1/2 の光子を 2 個同時に当てて励起させる 2 光子励起過程を用いた顕微鏡。長波長光を用いることで、組織の深部まで低侵襲で到達し蛍光物質を励起することが可能になり、生体イメージング研究において重要なツールとなっている。
ケモカインの一種である CX3CL1 の受容体であり、フラクタルカイン受容体とも呼ばれる。単球マクロファージ系の細胞や一部のリンパ球の表面マーカーとして主に用いられる。
Q1 なぜ血管から流入した骨髄細胞と、常在性マクロファージの性質が異なるのですか ?
破骨細胞へ分化するためには、receptor activator of nuclear factor-kappa B ligand(RANKL)と macrophage colony stimulating factor(M-CSF)の二種類のサイトカインによる刺激が必須ですが、滑膜表層の常在性マクロファージには M-CSF の受容体である CSF1R が発現しないことが報告される一方、血液から流入した単球・マクロファージ系細胞には CSF1R が発現しています。この相違や、エピジェネティックな制御を含め多彩な要素が破骨細胞への分化能に関与していると思われます。
Q2 イメージングにおいて、先生が最も苦労された点はなんでしょうか。
炎症を起こしたマウスの関節組織は、血流に富み多彩な免疫細胞の浸潤により腫大するため、膝や足関節のイメージングでは滑膜 - 骨境界領域まで二光子励起顕微鏡で可視化することができません。よって、第 3 中手指節間関節という非常に小さな関節をマイクロ剪刀を用いて低侵襲に露出させる手技の構築や、呼吸による視野の変動を最低限にするプロセスに苦労しました。
Q3 今回の研究成果をふまえ、新たな関節リウマチの治療へとつなげるために先生が今後期待されることはなんでしょうか。
関節組織のイメージング技術の向上や、破骨細胞の骨吸収能を可視化する新たな蛍光プローブの開発により、より正確に病的な破骨細胞の挙動が明かされることで、炎症性骨破壊を特異的に制御する治療が可能になると期待しています。