生体イメージングが明かす体内免疫システムの空間不均一性とその意義 拡大
生体組織内では免疫システムをはじめ様々な細胞活動が空間的に精緻に制御されており、それが組織の恒常性を維持するうえで重要であることを明らかにした。
由来種
:マウス
器官・組織・細胞(株)名
:肝臓
染色・ラベル方法等
:抗体染色(免疫組織化学)
青:E-cadherin(DyLight 405)
赤:F4/80(Alexa Fluor 647)
緑:Marco(Alexa Fluor 488)
ソフトウェアによる色調の加工調整
顕微鏡の種類
:倒立
観察手法
:蛍光・共焦点・多光子
対物レンズ
:20倍
作品画像取得年
:2022
宮本 佑大阪大学 大学院生命機能研究科 助教
生体イメージングが明かす体内免疫システムの空間不均一性とその意義
2025 特別賞

受賞コメント

宮本 佑
この度は、2025 NIKON JOICO AWARD 特別賞にご選出いただき、大変光栄に存じます。
私は「生体イメージング」を用いて、生きた動物の臓器内を直接観察し、細胞動態を切り口に免疫・炎症システムの解明に取り組んでまいりました。
生体内での細胞の挙動は一見ランダムに見えますが、所々に周囲の細胞が形成する特異な微小環境が存在し、その中で細胞の挙動や機能が精緻に制御されていることが明らかになってきました。
私が生体イメージングを始めた当初は、空間的な細胞制御の概念が広がりつつある一方で、それをどのように実証するかが明確ではありませんでした。
その中で、本研究のアプローチが学術的にも芸術的にも評価いただけたことは、この上ない喜びです。
今後も生体イメージングを通じて、未だ解明されていない生命現象の本質に迫ってまいります。

研究の概要

生体内では私たちが想像もできないような細胞活動が繰り広げられ、生命が維持されている。
したがって、生物の生命原理の解明には生体内をそのまま観察し解析することが必至である。
生体イメージング1 は、生きた動物の体内を可視化する優れた技術である。
加えて、近年では様々な遺伝子改変マウスやオミクス解析技術2が登場したことで、生体組織内の空間情報(位置情報)を記録した状態で細胞を取り出し、網羅解析することが可能になってきた。
イメージングとオミクスの融合により、従来の解析手法では見出すことが困難であった生命現象の発見およびその原理の解明が可能になってきている。
Yu Miyamoto, Junichi Kikuta, Takahiro Matsui, Tetsuo Hasegawa, Kentaro Fujii, Daisuke Okuzaki, Yu-chen Liu, Takuya Yoshioka, Shigeto Seno,
Daisuke Motooka, Yutaka Uchida, Erika Yamashita, Shogo Kobayashi, Hidetoshi Eguchi, Eiichi Morii, Karl Tryggvason, Takashi Shichita,
Hisako Kayama, Koji Atarashi, Jun Kunisawa, Kenya Honda, Kiyoshi Takeda, Masaru Ishii.
Periportal macrophages protect against commensal-driven liver inflammation.
Nature. 2024, 629(8013), doi: 10.1038/s41586-024-07372-6

Yu Miyamoto, Masaru Ishii.
Spatial heterogeneity and functional zonation of living tissues and organs in situ.
The Journal of Biochemistry. 2024, 176(4), doi: 10.1093/jb/mvae049

用語解説

1.生体イメージング

生きた動物体内で細胞や分子の動き・相互作用を可視化し、時間的変化を追跡する技術。
生命現象をその場で解析できる点が特徴。

2.オミクス解析技術

遺伝子発現、タンパク質発現、代謝物・脂質など細胞内のコンテンツを包括的に定量解析する技術。

3.小葉

肝臓の最小組織構造単位のことで、六角形様の構造をとり、門脈(頂点部)から中心静脈(中心部)に向かって血液が一方向性に流れる。
この単位構造の中で、エネルギー代謝、解毒、胆汁産生など多彩な生命活動が行われている。

4.グリソン鞘

肝臓内における門脈・肝動脈・胆管が束になった部位を包む結合組織。

5.濃度勾配

物質の濃度が場所によって異なる状態を指す。

6.生体エネルギー物質ATP

ATPはアデノシン三リン酸のことであり、リン酸結合が切れる際にエネルギーを放出し、これが生命活動を支える原動力として働く。

7.蛍光プローブGo-Ateam

生体エネルギー物質ATPを可視化する蛍光プローブ。
緑色蛍光タンパクGFPと橙色蛍光タンパクOFPをATP結合ドメインを有するリンカーで繋いだ構造をとる。
ATPが低濃度の場合はGFP蛍光が生じ、高濃度の場合はOFP蛍光が生じる。
色調によってATP濃度が定量的に計測できる。

8.LysM-GFPノックインマウス

Lysosyme M(Lyz2)のプロモーター直下に緑色蛍光タンパクGFPをノックインすることで、この遺伝子をマーカーとして発現する細胞を可視化したマウス。
このマウスでは、好中球をはじめとした顆粒球と一部のマクロファージがGFPで可視化される。

9.好中球

白血球の一種で、細菌など異物の侵入に対して最初に反応する免疫細胞。
異物を貪食し、活性酸素や酵素で殺菌して感染防御を担う。

10.シングルセル網羅的遺伝子発現解析

細胞1個ごとの網羅的な遺伝子発現を調べる手法。
平均値しか分からないバルク解析と異なり、一つ一つの細胞の多様性や希少集団を明らかにできる。

11.バイオレットレーザー光

波長約405nmの紫色のレーザー光。
蛍光色素の励起や分子の活性化に使用される。

12.GFP蛍光

クラゲ由来の緑色蛍光タンパク質が青色光で励起され緑色に光る現象。
遺伝子発現や細胞の動きを可視化するツールとして広く応用されている。

13.フローサイトメーター

細胞を1個ずつ流路に流しながらレーザー光を当て、細胞の大きさ、複雑性、蛍光染色した分子を測定する装置。
細胞の性質を高速かつ定量的に解析できる。

14.スカベンジャー受容体Marco

主にマクロファージに発現するスカベンジャー受容体で、細菌、ウイルス、死細胞由来分子など炎症を誘導する物質(異物)を捕捉し、これらの貪食を促す。
異物除去や炎症制御に関与する。

15.サイトカイン

免疫細胞などが分泌する情報伝達タンパク質。
炎症を促す催炎症性サイトカインと、炎症を抑える抗炎症性サイトカインがあり、免疫反応のバランスを調節する。

16.免疫制御性マクロファージ

炎症を抑え組織恒常性を保つ働きをもつ保護的マクロファージ。

17.デキストラン硫酸ナトリウム水(DSS)

マウスに経口投与して腸管バリアを破壊する実験モデル。
炎症性腸疾患やリーキーガットの病態解析や治療研究に用いられる。

18.腸管バリア

腸上皮細胞、粘液、免疫細胞が協調して腸内共生微生物や有害物質の侵入を防ぐ防御機構。

19.組織線維化

慢性炎症や組織傷害によりコラーゲンなどの線維成分が過剰に蓄積し、組織が硬くなり機能が低下する病的変化。

作品の利用について

NIKON JOICO AWARD 受賞作品の利用方法についてご紹介します。

ABOUT HOW TO USE

審査員講評

  • 生体画像でランダムさの中に調和を感じる不思議な魅力がある。
  • 優れた学術成果である。空間的に不均一でダイナミックな細胞分布が自然に周期性のあるペイズリー模様を生み出している。
  • 油絵の具を厚塗りしたようなテクスチャーを感じ、ビジュアルのインパクトが大きく、美しい。
  • テキスタイルかのような美の均一性を感じる。